歳を重ねてわかってきたことがある。

20代のころは時間が経てば、心の傷は消えると思っていた。
確かに、小さな傷は放っておけば消えていく。
でも、深い傷は時間が経っても消えない。
消えないどころか、鋭さを増して、痛む。
そして生きていると傷はさらに増える。

この痛みから逃れたいと思う。
逃れるために麻酔のようなものもある。
でも、麻酔が切れればまた傷はいっそう痛みだす。

結局傷からは逃げられないのだとやっと悟る。
この傷と付き合いながら生きていくしかないと覚悟する。

逃げない。痛みに苦しみながら生きる。

<冨上芳秀先生講評>
傷とはどのようなものであるという抽象的な説明をしてもおもしろくない。どのような傷を負ったのかを書かなければならない。辛ければ書かなくてもいいのだが、詩とはその傷がどんなものであるかに向き合うことである。その個別の体験が個性である。そうすれば本当に傷が癒されるし、そこから学ぶことがある。具体的に書くことがまさに<逃げない>ことである。