2015年の「共働き子育てしやすい街ランキング」地方編(「日経DUAL」と日本経済新聞社の共同調査)で1位を獲得し、雑誌「田舎暮らしの本」(宝島社)17年2月号の「日本『住みたい田舎』ベストランキング!」では総合部門4位に輝いている、静岡県静岡市。
しかし、一方では同市からの転出者数は以前から多いという。それはなぜか。静岡市企画局企画課地方創生推進室の小島憲之室長と秋山秀夫氏に話を聞いた。
共働き・子育てのインフラが整っている静岡市

――静岡市の魅力は、どんなところにあるか。
小島憲之室長(以下、小島) 東京や名古屋まで新幹線で約1時間とアクセスが良く、ほどほどの都会でありながら、南アルプスや駿河湾など、山、川、海の自然が中心市街地のすぐ近くに存在している。また、平均通勤時間も首都圏や全国平均より短く、豊かな暮らしを体感できる街といえる。
秋山秀夫氏(以下、秋山) 郊外型店舗だけでなく駅前に繁華街が集中している点も、静岡市の大きな特徴だ。JRのほか私鉄も整備されており、バスなどの公共交通機関も山間部まで網羅されていることから、車を持たない方でも生活しやすい。
また、気候の面でも年間の平均気温は17.2℃と過ごしやすく、冬も温暖でほとんど降雪がない。かの徳川家康公が終のすみかとして選び、長寿をまっとうしたことは、静岡市の都市としてのバランスの良さや「健康で文化的な暮らしができる街」であることを物語っているのではないか。

静岡市企画局企画課地方創生推進室の小島憲之室長(左)と秋山秀夫氏(右)
――「日経DUAL」と日本経済新聞社の「共働き子育てしやすい街ランキング」では、「働くお母さんでも子育てがしやすいように、インフラ面が整っている」という点が大きく評価されていた。
秋山 全国に先立ち、市内の市立保育園・幼稚園をすべて認定こども園に移行し、待機児童園や病児・病後児保育室を創設するなど、全国と比較しても質が高くきめ細かい環境を整えている。特に医療費助成や不妊治療費助成は、政令指定都市の中でも高い水準で行っている。また、街の中心部にも子育て支援センターが設置されていて一時預かりも可能など、かゆいところに手の届く支援策が多く、子どもを育てやすい環境づくりに注力している。
小島 放課後児童クラブ(学童)も、小学校6年生まで希望するお子さんを受け入れられるように拡大している。また、放課後子ども教室では、地域の方と工作やスポーツを一緒にしたり地域ぐるみで子育てを支援したりするなど、地元の方々の温かい支援もある。

静岡市は転入者数が転出者数を超えたことがない

 

――住みやすく子育てしやすいといわれる静岡市だが、15年の国勢調査によると人口は70万4989人で政令指定都市20市の中では最下位。また、10~15年の5年間の人口減少数は政令指定都市の中で2番目に多いという。この原因は、どこにあるか。
秋山 全国に先んじて高齢化が進んでいるのが最大の原因だが、転入者数が転出者数を超えたことが一度もないという事実も課題ととらえている。転出においては、アクセスの良さという静岡市のメリットが諸刃の剣になっている。それが「出やすい」ということにつながり、東京や名古屋などの大都市に人口が流出しているからだ。
小島 大学進学から就職の時期にあたる18~22歳の若者の流出が目立ち、転出先は主に首都圏となっている。首都圏に出た若者がそのまま首都圏で就職し、静岡市に戻ってきていないことがわかっている。

「第3次静岡市総合計画」より
東京で就職活動をすれば、必然的に東京近郊の会社の情報が集まりやすいため、東京で就職するケースが多い。そこで、東京在住の学生にも静岡市の企業の就職活動が行えるように、市としても東京での会社説明会の開催を積極的に支援している。
また、静岡市から首都圏の大学などに通う学生に新幹線定期券の一部を無利子で貸与し、卒業後も静岡市に居住すれば返還を免除するという事業をスタートさせた。就職活動の拠点を静岡市にしてもらうことで、地元就職の選択肢を広げてもらえるように後押しをしている。
静岡市の「第3次静岡市総合計画」では、「2025年に総人口70万人を維持」を最大のストレッチ目標として掲げている。人口が現在の傾向で推移した場合、25年には67万8000人となることが予想されている。目標である70万人維持を実現するには、18~40歳の転入率が急カーブを描くように増加しなければならず、転出が続く現状ではかなり厳しい数字である。
100人の誘致より10人の起業家が生まれる土壌を

 

――今後は、企業や大学の誘致に力を入れていくのか。
秋山 全国的な人口減少の流れの中では、大学や企業の誘致は簡単ではない。また、企業の規模が大きくなれば東京に進出すること自体はやむを得ない部分もある。現実的には、人においても企業においても、市外から誘致するだけでなく、市外への流出をできる限り少なくするということも重要と考えている。
小島 静岡市は、起業しやすい街でありたいと思っている。従業員100人規模の会社を誘致することは難しいが、10人の起業家が10の会社をつくって10人の従業員を雇用することで100人の雇用を生み出してほしい。我々は、そのための支援をしていきたいと思っている。
秋山 首都圏からのアクセスが良く、静岡県内最大の商圏の中心部である静岡市で起業するメリットは大きい。また、起業者率は政令指定都市の中で1位と、環境の良さがうかがえる。
――ありがとうございました。

数年前に東京都武蔵野市から静岡市に引っ越してきた筆者は、宅地や郊外の随所に手入れの行き届いた公園が点在することに驚いた。市内では、新鮮な海の幸や山の幸も豊富に手に入る。地方都市の利便性と田舎の良さというバランスを兼ね備えた静岡市は、特に子育て世代には住みやすい街といえる。
また、静岡市は地理的特徴として清水港や静岡空港、新東名高速道路など物流のインフラにも恵まれている。そのためか、小売業、サービス業、製造業がそれぞれ発達しており、全体として産業のバランスがいいとされている。
産業構造などが全国平均に近いため、静岡市はテストマーケティングの地として選ばれる街でもある。名古屋や東京などの都市部で起業するよりランニングコストは格段に安く済み、いずれ大都市圏に進出するにしても、起業には適した街といえる。
近年、世界中から起業家が集まる街としては、オランダのアムステルダムが有名だ。暮らしやすさや利便性に加え、法人税が低く、起業家への税免除や助成なども大きな魅力となっている。
静岡市においては、「暮らしやすい」「子育てしやすい」以外のメリットをどれだけPRしていけるかがカギとなるだろう。今後、先駆的な会社や起業家の登場に期待したい。
(構成=林夏子/株式会社フォークラス・ライター)

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